シングルシード養殖とは
日本、中国、韓国を含むアジア地域で、長年にわたり主流であった牡蠣養殖がカルチ方式です。日本では主にホタテ殻(他国では牡蠣殻が多い)を基質として海中に設置し、自然発生した幼生が付着するのを利用します。基質には多数の牡蠣が固着したまま成長し、それらを筏や延べ縄から垂直に垂らす方法(垂下式)によって育成します。この方法は、自然採苗を前提とすることで採苗コストを大きく抑えられる点が特徴であり、主にむき身用牡蠣を大量生産する体制を支えてきました。
一方、日本において、この10年間で普及してきたのがシングルシード養殖です。牡蠣をひと粒ずつ独立した状態(単粒)で、バスケットなどの容器に収容して育成する手法です。アメリカ、カナダ、オーストラリア、フランス、アイルランド、オランダなどでは、この方法が殻付き牡蠣(ハーフシェルで消費)向け養殖の標準的手法として確立されています。欧米では、牡蠣は「殻を開けて提供する一皿の商品」として扱われることが多く、身入り、サイズ、形状、殻の深さ(カップの深さ)が明確に評価されます。そのため、生産段階から個体を1粒ずつ管理し、規格化しやすいシングルシード養殖が発展してきました。
シングルシード養殖の特徴的な点は、一粒一粒の牡蠣がバスケット内で互いにこすれ合い、波や潮流の影響を受けながら成長する点にあります。この物理的刺激により、殻は丸みを帯び、カップが深く、内容量の多い形状になることが知られています。この刺激により、殻を大きくすることよりも、身入りの充実にエネルギーが使われるようになります。また、殻を閉じる力の源である貝柱が発達するため、収穫後も殻をしっかり閉じた状態を維持しやすく、流通・保管中の生残性が高いと評価され、殻付き流通を前提とする市場において重要な特性です。

シングルシード養殖:一粒ずつ独立した状態で育成

カルチ養殖:日本では、ホタテの殻に幼生を固着させる
シングルシード人工種苗
カルチ養殖が自然採苗を基盤としているのに対し、シングルシード養殖では人工種苗の稚貝が用いられることが多いという構造的な違いがあります。人工種苗は、孵化場で親貝を管理し、採卵・受精・幼生培養を経て生産されます。幼生の付着を制御できるため、初期段階から単粒の稚貝を安定的に得られることが、シングルシード養殖との高い親和性につながっています。
さらに人工種苗の重要な点は、「供給の安定」にとどまらず、選抜育種を通じて、成長性、生残性、病害や高水温などの環境変動に対する耐性を持つ系統を、世代を追って改良できる点にあります。これは、自然環境に全面的に依存する採苗体系では実現が難しい要素です。近年の欧米では、養殖技術そのもの以上に、この育種基盤の整備が産業競争力を左右する要因として認識されています。

シングルシード人口種苗
二倍体と三倍体
人工種苗では、二倍体(2n)と三倍体(3n)の両方が生産されます。三倍体はほぼ不妊であるため、産卵に伴う身入り低下が起こりにくく、特に夏場においても品質を維持しやすいという特徴があります。日本では現在、三倍体の利用割合が高い傾向にあります。
一方で、欧米では三倍体技術が確立されている地域であっても、三倍体は全体の一部にとどめられるケースが一般的です。理由の一つは、選抜育種を継続的かつ柔軟に進めるうえで、二倍体の方が適しているという認識が強まっているためです。アメリカやオーストラリアでは、環境変動や疾病リスクへの対応力を高める目的から、二倍体を主体とした育種体系へ回帰する動きも見られ、三倍体は主に夏季需要を補完する位置づけに留まることが多くなっています。
